常念岳・蝶ヶ岳

じょうねんだけ・ちょうがたけ
2857m・2677m

2003年9月12日(金)〜15日(日)
単独行
車中一泊・幕営二泊
一ノ沢⇒常念乗越⇒常念岳⇒蝶ヶ岳⇒長塀山
⇒徳沢⇒上高地

深田久弥著「日本百名山」の中に「常念を見よ」と言う文言がある。
以前、松本に仕事で通った事があったが、当時山にはまったく興味がなく、ぼんやり眺めいた山
が常念岳であった事などどうでもよかった。
その時、誰かが「常念を見よ」とでも言ってくれたら山に対する情熱も、もっと早く目覚めていたか
も知れない。


【一日目】
敬老の日を含めた三連休に常念岳から蝶ヶ岳
の縦走を計画した。
しかし最大級の台風14号が日本に接近して
いる。
到底、快晴などは望めなが台風をうまく避けれ
ば台風一過の抜けるような展望が期待できる。

夜行列車の指定券は取れているが雲行きが
怪しい。
行くべきか行かざるべきか悩んだ。

Web仲間の潤平さんも同じ列車で北アルプス
へ向かうらしい。
自他共に認める雨男の潤平さんも最近雨男を
返上しつつあるようだ。
それならば僕も常念岳を目指して出発しよう。
ちなみに僕は晴れ男である、雨の日は出掛け
ないからで、潤平さん的に言えばインチキ晴れ
男である。
以前は夜行列車と言えば急行アルプス号であ
った。
この春のJRダイヤ改正で廃止になって新たに
快速ムーライト信州号となって週末のみ運行
している。
少し前の特急列車の車両を使っているため快
適である、満席の社内であるが僕の隣はキャン
セルなのか空席だ、手足を伸ばしてゆっくりで
きる。
新宿駅を23時54分発車、4時46分豊科駅に
着いた、どうやら雨は降っていないようだ。
豊科駅から常念岳の登山口、一ノ沢まではタ
クシーで移動する事になる。
車が山道に差し掛かる頃には空が白々明けて
きた、低い雲が山肌を覆っている。
「今日は雨か・・・」などとつぶやきながら登山
準備をする。
一ノ沢の登山補導所前にはマイカーの登山者
も集まりかけてきた。
人に追われて歩くのが苦手な僕は、登山者が
途切れるのを見計らって出発した。
最初は緩やかな登りをウォーミングアップがて
らゆっくり歩く。
今日はすこぶる調子がいいようだ。
登山道は沢の左岸に沿って延びており常にせ
せらぎを聞きながらの登りになる。
時折広い河原に出る、これが絶好な休憩場に
なる。
手の切れるような冷たい水で顔を洗い、寝不足
でぼんやりした頭に気合いを入れる
高度を上げて行くとお花畑に出る。
この辺から北アルプス三大急登の一つ「胸突
き八丁」と呼ばれる登りに差し掛かる。

これまで調子は良かったがいつもの通りアゴ
が出て息が荒くなる。
雨がパラ付いてきた、時折強い風が稜線から
吹いてくる、台風の影響なのか。
テントの設営は大丈夫か不安になってきた。

登山道は沢の左岸に沿っているが右岸に渡る
所がある、ここが最後の水場となる。
岩からしみ出している水が渇いた喉に冷たくて
おいしい。
水場から先は沢と離れて急な登りが続く。
ガイドブックによると程良い間隔でベンチがあ
るとされているが、僕には程良い間隔ではな
い、ベンチとベンチの間を休み休み進み、ベ
ンチで小休止だ。
風に悩まされてようやく常念岳の姿が見え
てきた。
三角錐の山容が美しい。
常念小屋のある常念乗越に着いた。
途中、時々吹いていた風が稜線に出たら暴
風だ。
風の影響の少なそうな場所にテントの設
営だ。
先ずテントを組立てて飛ばないように中に
ザックを放り込み四隅にペグを打つ、張り
綱は大きな石にしっかりくくり付ける。
なんとかテントは張れたものの中に入る
と天幕がバタバタと大きな音を出して揺
れている。
大型のテントを持って来たパーティはテ
ントを張るのに苦労していたが、諦めて小
屋泊まりにしたようだ。

【二日目】
一晩中、風は吹き荒れて朝方ようやく治まって
きた。
朝4時ころ目が覚めた。
昨夜の風で殆ど眠れなかったたため二度寝を
してしまった、気が付いたら6時を過ぎている。
慌ててテントを撤収して常念岳に取り付いた。
寝不足で足取り重くゴロ岩を登る。
標高差400m、ひと登りだと思ったのが大間
違いだった。
常念乗越から見えるピークが頂上と思ってい
たがそこは八合目、もう少し先に頂上がある。
八合目から常念乗越・横通岳方向を覗いてみ
る。
一ノ沢からガスが吹き上がっている、これから
の稜線歩きはどうなることやら。
山頂に着いた。
あの雄大な三角錐の山容からは想像でき
ないくらい、大きな岩が重なり合った小さな
ピークであった。
ピークのすぐ下に腰を下ろせる場所を探して
休憩する。
期待していた槍ヶ岳も穂高岳も頂上付近は厚
い雲が掛かっている、麓だけのパノラマだった。


 ←パノラマ写真
この稜線を渡り蝶ヶ岳を目指す。
思っていたより登り下りが連続している。
常念岳を下る。
巨岩・奇岩を巻きながら高度を下げて行く。
ここが一番の難所、最低鞍部付近だ。
岩場の急な下りになる、ここは慎重に無理を
せずに手でバランスを取りながら下る。
途中一ヶ所、岩が登山道に張り出し足元は
切れ込んでいる危険箇所がある。
ベテランなら、なんでもない所がも知れない
が僕はこれが苦手なのだ。
振り返るとデンと構えた常念岳が見送ってくれ
ている。
最低鞍部を過ぎると次は2512m峰が迫って
いる。
これまで下りの連続なのにもう息が上がって
いる、普段の運動不足と二日連続の寝不足
と重い荷物のせいなのか。
2512m峰を過ぎると急に樹林帯に入った。
2592m峰だ、お花畑を直線に登るが今の季
節お花は殆ど咲いていない。
地図では標高が記載されているだけだ、山
名はないのだろうか。
この樹林帯の2592m峰に入ってからが益々
辛くなってきた。
歩幅を極端に狭めて5分登って3分休む繰り
返しでなんとかこのピークを通過した。
これを下り、登り返せば蝶槍だ。
しかしこの下りがどんどん下る「もういい加減
に登りにしようよ」とぼやく。
しかし時折木々の間から見える蝶槍はどんど
ん高くなってゆく。
出発が遅かったのとバテバテで予定時間を大
幅にオーバーしている。
計画では今日中に長塀山を下り徳沢で幕営の
予定だった。
もう2時を過ぎている、徳沢は無理だ。
それなら横尾に降りるか、やはり蝶ヶ岳で幕営
がベストか。
今日の幕営地を考えながら肩を落としながら
トボトボと歩いていたら今まで雲に閉ざされて
いた槍の穂先が一瞬見えた。
不思議なものでこのような風景を目の当たりに
すると少し元気が回復するような気がする。

やっとのことで蝶槍が近付いてきた。
蝶槍は以前に登ったので今日は巻いて先を
急ごう。
向こうはなだらかな山容の蝶ヶ岳だ。
蝶ヶ岳ヒュッテにはカラフルなテントが点在して
いる。
もう4時に近い、やはり今日はここで幕営しよう。


 ←パノラマ写真
4時過ぎ、蝶ヶ岳ヒュッテに到着した。
早くテントを張らないと日が暮れてしまう。

冷えた缶ビールを2本抱えてテント場に向
かった。

テントでビールを飲んで一息付いた。
今日の道のりは登り返しが辛かった、のんびり
稜線歩きと思っていたが違っていた、事前の調
査不足だった。
穂高岳に沈む夕日をぼんやり眺め、夜は満天
の星を眺めた。

ひときわ赤く光り輝く、6万年振りに地球に超大
接近している火星を見て眠りについた。
【三日目】
翌朝、テントから首をだし寝ぼけ眼で蝶槍を
見た。
雲は消えている?・・いや違う本家槍ヶ岳
だ!慌ててカメラを手にテントを飛び出した。
モルゲンロートの大パノラマが目の前で展開
しているではないか。
蝶ヶ岳で幕営してよかった。

 ←パノラマ写真

今日は早立ちをして早めに上高地に下ろうと思
っていたが、朝焼けの山々を眺めていたらずい
ぶん遅くなってしまった。
まあいいやこうなったら山のご褒美を楽しもう。
雲一つない文句なしの大パノラマを堪能した。
結局出発は7時になってしまった
2年前登りに使った長塀の尾根をひたすら下
る、槍ヶ岳ともしばしの別れだ。
最初の2時間の広場までは調子良くリズミカ
ルに下ったが徳沢園の屋根が見えてきた頃か
ら足が怪しくなってきた。
つかえたり滑ったりしてきた、かなり足の疲労
があるようだ。
長塀の尾根を下っているときに考えていた事
はただただ「徳沢のリンゴ」だった。
登山口から脇目も振らず徳沢園の売店前の
水槽に浮いている冷えたリンゴを2つ買う。
徳沢園の草原で靴を脱いでリンゴをかじった。
かたい信州リンゴの甘酸っぱさが疲れた体に
心地いい。
上高地に戻ってきた。
いつもなら徳沢から上高地までは早足で観
光客を追い越して歩くが、今日は皆と同じス
ピードだ。
朝方雲一つない空だったが河童橋に着いた
頃には穂高岳に雲が掛かりはじめている。
12時40分のバスに乗れば夕方には家に帰る
ことができる。
少し時間があるのでバスターミナルの二階で
岩魚の塩焼きとビールで自分自身の慰労をし
た。
新築の上高地ビジターセンターの屋根越しに
雲の掛かった穂高岳を眺めてビールを飲み干
した。
【行程】
◎1日目
23:54 新宿駅発ムーライト信州81号
 4:46 豊科駅着
 5:15 一ノ沢登山口着(タクシー)
 5:43 登山開始
 6:00 山ノ神
 7:12 烏帽子沢
 9:30 お花畑
11:00 最後の水場
12:33 常念乗越
◎2日目
 7:10 常念乗越
 8:25 常念岳八合目
 9:15 常念岳山頂
 9:35 山頂発
11:23 最低コル
12:10 2512m峰
13:30 2592m峰
15:06 蝶槍通過
15:18 蝶ヶ岳三角点
15:31 横尾分岐
16:16 蝶ヶ岳ヒュッテ
◎3日目
 7:00 蝶ヶ岳ヒュッテ
 7:41 長塀山
10:06 徳沢
10:30 徳沢発
11:15 明神
12:00 上高地
12:40 バス乗車
14:08 新島々駅発
14:50 松本駅発 あずさ64号
17:35 新宿駅着


      常念岳の山容と花たち










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