やりがたけ
3180m
|
2002年9月20日(金)〜23(月)
単独行
上高地⇔横尾⇔ババ平⇔槍ヶ岳
|
「いやしくも登山に興味を持ち始めた人で、まず槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はな
いだろう。」と深田久弥氏は名著「日本百名山」で著している、勿論僕もその一人だ。
去年、蝶ヶ岳・穂高岳からあの尖った山容を見た時からあのテッペンに立ってみたいと思っていた。
以前、松本駅前の蕎麦屋「弁天」の店内に貼られていた槍ヶ岳の観光ポスターを見た時、これは
僕には絶対無理だと思った。
切り立った岩にしがみ付く人が上へ上へと蟻の行列の如く向かっているではないか、高所恐怖症
の僕は背筋が寒くなる思いだった。
その槍ヶ岳に今挑戦しようとしている、槍の肩までは何とか行けるだろう、槍の穂先を見てだめなら
諦めて帰ろう。 |
|
|
【一日目】
金曜日の夜、急行アルプスで新宿駅から出
発した。
連休前で列車は満席だ、酒に酔った若者ハ
イカーが声高に談笑している、もう一時を過
ぎている、寝不足になっては明日の歩きに
影響する。
「もう一時を過ぎたのでお静かに」と注意して
眠りについた。
僕は時々小言幸兵衛になる。
|
車内の異様な気配で目が覚めた。
ずいぶん乗客が少なくなっている、さっきの
若者達もいない。
時計を見ると4時37分だ・・・
「いけねー寝過ごした・・・」慌てて荷物をま
とめて豊科駅に飛び降りた。
さてどうしよう、予定を変更して常念岳に登ろ
うか、いやいや地図がない、それと心の準備
が出来ていない。
ここはタクシーに乗って新島々に向かおう。
今からなら時間のロスも少ないだろう・・・。
いや面倒だ上高地まで走ろう。
タクシー代16,000円也、寝坊の代償は高
く付いた。
|
、 |
|
タクシーをとばしたので予定より30分早く上
高地に着いた。
釜トンネルの上高地側は今年から新しくなっ
ていた。
トンネルから柱の間から降る滝が見られない
のが残念だ。
上高地から横尾までは何回か通った道だ、
早足で進む。
横尾から先は未知の世界になる、梓川を上
流に向かう。
槍見河原に出た、今日初めての槍ヶ岳の穂
先だ。
|
一の俣橋を渡る。
|
|
|
二の俣橋を渡る。
こちらは新しく掛け替えられたようだ、横尾大
橋のような鉄の地肌を活かした橋だ。
|
槍沢ヒュッテに到着した。
木造の新しい小屋だ、ここで大休止とした。
テントの受付を済ませて、そして忘れてはい
けない、缶ビールを調達していざババ平のテ
ント場へ。
小屋のお姉さんに聞いたら30分くらいの距
離だそうだ。
|
|
|
槍沢ヒュッテからの眺望はないが隣に広場が
あり、ここから辛うじて穂先が見える。
|
槍沢ヒュッテのすぐ上にも槍見のポイントが
ある。
この辺から急な登りになってくる。
今まで快調にとばしてきたが急にペースダ
ウンする。
|
|
|
ババ平のテント場に到着。
槍沢ヒュッテから30分の距離と聞いていた
が小一時間掛かった。
ここは槍沢小屋の跡地で石垣がその名残だ。
|
予定より一時間以上早くテント場に着いた。
時間も早いのでもう少し先に進みたいがここ
から先、殺生ヒュッテまでテント場はない。
ここから5時間以上必要だ、日も暮れるし体
力にも自信がない。
ここで幕営してゆっくりしよう。
恐竜の骨のような雲を肴にビールを飲み
ながら、のんびり流れる時間を楽しんだ。
|
|
|
【二日目】
午前3時過ぎ周囲の登山準備する音で目が覚
めた。
今日の行程は長い、早めに出発しよう。
インスタントラーメンで朝食を摂り、いざ槍ヶ岳
へ。
かなり寒い、厚手のフリースに厚手の山シャ
ツを着込んで4時25分テントを飛び出した。
ヘッドランプの明かりを頼りに慎重に歩く。
|
歩き初めて10分で汗が噴き出してくる、フリー
スを脱ぐ。
さすが冬用のフリースはまだ早かった。
一時間ほどで明るくなった。
山シャツを脱いでTシャツ一枚になっても汗が
噴き出す。
梓川の左岸をひたすら進み、尾根道を登り高
度を上げて行く。
そろそろ紅葉が始まっている。
|
|
|
天狗原への分岐を過ぎてしばらくすると東鎌
尾根に遮られていた槍ヶ岳の全容が見えて
くる。
|
穂先は目と鼻の先のように見えるがまだまだ
距離はある。
ゴロゴロした岩場を登る、ますます斜面は急に
なる。
標高3000mに近くなる、空気が薄いせいか
いつもより息が切れる。
|
|
|
槍ヶ岳を開山した播隆上人がここをベースキ
ャンプとした坊主岩だ。
すれ違う女子小学生の「おはようございます」
という大きな声に子供の元気をもらう。
|
頭上に槍岳山荘がせまってきた。
ここからジグザグに登り、山荘を目指す。
|
|
|
新装なった槍岳山荘に到着した。
小屋の手前のジグザクの登りでは殆ど足が
上がっていなかった。
|
一息ついて槍の穂先を眺めた。
松本駅前で見たポスターと同じだ、蟻がへばり
付いている。
|
|
|
あまり長時間休憩していると臆病風が吹いて
決心が鈍るといけない。
さっさと穂先に取り付き蟻になろう。
登りは一旦小槍の方向へ出る、こんな所で
アルペン踊りなんてできたものではない。
三点支持で慎重に登るがかなりの高度感で
手足が震える。
今までの山歩きで少しは高所恐怖症を克服
できたかと思っていたがやはりだめだ。
|
高度のせいか、それとも恐怖心のせいか数歩
登ると息が切れる。
冷たい岩にホールドを求めて確実に登る。
一つ目の鉄梯子が見えてきた、下を見ない
ように恐る恐る登る。
やはり人工物は余計に怖い。
|
|
|
ほぼ垂直に立つ鉄梯子を2本登り切ると槍の
テッペンに出る。
僕の後ろから登って来た登山者がニコニコし
て「この階段を登るといよいよ山頂ですよ」と声
を掛けてくれたが返事をする余裕もない、生返
事を返す。
恐らく槍ヶ岳の達人なのだろう。
最後の階段がやけに長く感じる、右足で山頂
を踏み最後の一歩の左足を上げた瞬間山靴
のベロが梯子に引っ掛かりドキッとした。
|
ここが槍ヶ岳の山頂だ、とうとう来た。
ババ平から抜きつ抜かれつで同じペースで登
って来た中年夫婦二組も僕の直前に登ってい
た。
頂上には数人が休んでいる、思ったより空いて
いた。
なぜか三角点が二つ並んで立っている、風雪
のため角が取れて山頂の石と同化している。
うっかりすると見落としそうだ。
国土地理院の情報によると1999年8月5日
現在亡失となっている。
←パノラマ写真
|
|
|
直下には槍岳山荘の赤い屋根が見える。
その下には登山道がジグザグに走っている。
ここから見るとすごい急斜面だ、息の切れるの
も当然だ。
|
祠に手を合わせ360度の展望を楽しんだ。
去年登った穂高岳が厳しい表情で迫ってくる。
|
|
|
山頂で景色を楽しんでいるが気に掛かる事が
あって心の底から感動を味わっていない。
それはこの穂先を降りる事だ、当然高度感も
増す。
一つ深呼吸をして長い梯子を下る、あれ??・・
恐怖感がない、何故だろう??。
こうなったら下りを楽しもう。
あっと言う間に穂先を降りた。
|
鞍部で振り返ると赤・青・黄色のカラフルな蟻
さんの仲間が見える。
混雑してきたようだ。
|
|
|
槍岳山荘で自分への敢闘賞の山バッチを買っ
て、1000円也のカツ丼をいただいた。
|
テラスのベンチで昨日横尾で買ったリンゴ
をかじりながらしばらく槍と蟻さんを眺めて
いた。
名残り惜しいがそろそろ帰ろう
|
|
|
ここで槍ヶ岳の見納めだ。
ここから梓川の河原 に出るまでは横尾尾根
を見ながらの緩やかな下りだ。
|
雲行きが怪しくなってきた。
赤沢山のコルから横尾尾根に向かって雲が
流れて行く。 |
|
|
朝は暗くて見えなかったが緑の中の気持ちの
いい登山道となっている。
|
ババ平のテント場に到着だ。
ここババ平は水場と簡易トイレはあるが山小
屋と隣接していないため売店がない。
槍岳ヒュッテで調達した缶ビールを飲み干し
た。
今日も星空は望めない、早々に寝袋にくるま
って就寝した。
|
|
|
【三日目】
今朝も周りの登山者のカサガサという音で3
時に目が覚めた。
まだ早いが早立ちをしよう。
夜中に雨降っていたようだ、ズッシリと重くなっ
たテントを無造作にザックに詰めてヘッドライト
の明かりを頼りにテント場を後にした。
横尾までの間、猿の家族が人間を恐れず堂々
と登山道を歩いている。
僕の方が猿を恐れて視線を合わせないように
歩いた。
|
時々霧雨が降る、雨具を着込む程ではない。
屏風岩も明神岳も穂高岳も姿を見せてくれな
い。
黙々と歩き続け上高地に着いた、長い長い道
のりだった。
恐怖感とその後の文句なしの眺望、そしてふと
恐怖感のなくなる変な体感。
色々なハプニングがあった、そんな事を思い
ながら岩魚の塩焼きでビールを飲んで大きな
ため息を付いた。
|
|
|
槍沢のお花と少し早い紅葉。 |
|
|
|
|
ハプニング
1.急行アルプス号で松本駅下車の予
定が乗り過ごし豊科まで行く。
2.大曲付近でデジカメが故障。トンと叩
いたら回復、昔の真空管ラジオのよう
だ。しかし日付がリセットされてしまい
時刻の記録が出来なかった。
3.槍岳山荘で無礼な若いカップルの登
山者に意見。小言幸兵衛となる。
4.水沢の水場で休んでいたらおばあち
ゃんと小学生の男の子が登ってきた。
場所を譲るつもりで腰を動かした瞬間
足元の石がゴロゴロとおばあちゃんの
方へ「らくー・・・・ごめんなさい」
そのおばあちゃん「これからどちらへ
?」僕は「ババ・・・」と言いかけて「槍
沢のテント場まで」と答えた。
5.休憩でヘッドライトを消していざ出発
とライトを点灯した瞬間タマ切れをおこ
した。念のため電池を交換したら点灯
した。球切れではなく電池切れだっ
た。
教訓:リチュウム電池の電池切れは
突然やってくる。
|
|
|
【行程】
【一日目】9月20日(金) 晴れ
23:50 新宿発急行アルプス乗車
9月21日(土) 晴れ
4:37 松本駅を通過した事を確信
4:47 豊科駅下車
4:55 タクシー乗車
6:13 上高地着
6:30 上高地発
7:11 明神通過
7:53 徳沢着
8:08 徳沢発
8:59 横尾着
9:15 横尾発
9:55 槍見河原
10:17 一ノ俣
10:25 二の俣
11:05 槍沢ヒュッテ着
11:45 槍沢ヒュッテ発
12:40 ババ平テント場着
【二日目】9月22日(日) 晴れのち曇り
3:30 起床
4:25 出発
8:50 槍岳山荘着
9:00 槍岳山荘発
9:30 槍ヶ岳山頂
9:50 下山開始
10:15 槍岳山荘着
10:55 槍岳山荘発
12:45 水沢
14:35 ババ平テント場着
【三日目】9月23日(月) 曇り時々雨
3:15 起床
4:25 出発
5:30 二の俣
5:38 一ノ俣
5:48 槍見河原
6:25 横尾
6:35 横尾発
7:25 徳沢着
7:40 徳沢発
8:30 明神着
8;40 明神発
9:30 上高地着
10:00 上高地発
11:12 新島々着
11:33 新島々発
12:02 松本着
12:52 松本発 特急あずさ62号
15:36 新宿着
|